今回の震災が残した教訓を踏まえて電力システムの改革を行っていくことは重要であるが、エネルギー・電力は国の安全保障の根幹であることを忘れてはならない。今回の震災の結果、国の原子力政策は大きく揺らいでいる。日本の原子力政策はいわゆる「国策民営」で進められてきたが、実際には事故賠償などについて国の法的な責任が明確ではないことが今回明らかになった。今後の原子力の進め方について、官民のリスクや責任分担について一定の方向性を出すことなしに、電力供給システム改革の議論を進めても意味はない。その点、現在の政府における議論の進め方は原子力とその他の問題が一括して扱われておらず、問題の検討体制として不十分かつ不適切ではないかと思料する。
当研究会では、電力システム改革を議論するにあたって、押さえるべきポイントを今後何回かに分けて整理してみたい。(電力改革研究会)

  • 2012/05/10

    日本における発送電分離は機能しているか

    発送電分離とは

     電力自由化は、送電・配電のネットワークを共通インフラとして第三者に開放し、発電・小売部門への新規参入を促す、という形態が一般的な進め方だ。電気の発電・小売事業を行うには、送配電ネットワークの利用が不可欠であるので、規制者は、送配電ネットワークを保有する事業者に「全ての事業者に同条件で送配電ネットワーク利用を可能とすること」を義務付けるとともに、これが貫徹するよう規制を運用することとなる。 続きを読む

  • 2012/05/05

    小口小売(家庭部門)自由化に伴う副作用
    ―その対策はあるのか?

     前回説明したとおり、かつて電気事業は、発電から送電・配電・小売に至るサプライチェーン全体にわたって「自然独占性」があるとされ、地域独占が認められてきた。しかし、1990年頃から、発電・小売部門に競争を導入するための規制改革(いわゆる電力自由化)の動きが各国で見られるようになった。このような動きの根拠は、発電技術の進展により、発電事業に自然独占性が当てはまらなくなったからだとされている。 続きを読む

  • 2012/04/27

    電気事業は設備を作れば作るほど儲かるのか

     昨年12月27日、枝野経済産業大臣が「電力システム改革タスクフォース論点整理」を公表した 。ここで提示された論点を踏まえて、政府の総合資源エネルギー調査会総合部会の下に「電力供給システム改革専門委員会」が設置され、数回の議論が既に行われている。議論が行われる背景は、「東日本大震災によって現在の電力供給システムの問題点が顕在化したため」とされている。
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  • 2011/12/16

    情報に惑わされないための食の安全に関する入門書
    「安全な食べもの」ってなんだろう?放射線と食品のリスクを考える

     福島第一原子力発電所の事故に伴う放射性物質の流出により、食品の放射能汚染がにわかにクローズアップされている。事故から10日あまりたった3月23日に、東京都葛飾区にある金町浄水場で1kgあたり210ベクレルの放射性ヨウ素が検出されたことが公になるや、首都圏のスーパーマーケットに置いてあったミネラルウォーターがあっという間に売り切れる事態に発展した。最近では、福島県二本松市の水田で栽培したコメから、1kgあたり500ベクレルを超える放射性セシウムが検出され、メディアに大きく取り上げられている。しかし、1kgあたり210ベクレルの放射性ヨウ素や500ベクレルの放射性セシウムはどの程度の危険性を持っているのか、実はほとんどの方は判断がつかないのではないだろうか。本書は、我々が毎日必ず接している「食べもの」の安全性について、「リスク」という概念を用いて、一般の生活者にもわかりやすく解説したものである。

     著者の畝山(うねやま)さんは、国立医薬品食品衛生研究所の安全情報部第三室長で、食の安全に関するエキスパートである。放射性物質に限らず、食品に含まれるさまざまな化学物質が人体に与える影響について情報を収集し、発信してきた。本書の冒頭では、「私たちが毎日食べているものは、もともと安全性が確認されたり保障されたりしているものではなく、未知の、膨大なリスクのかたまりである」という衝撃的な事実が述べられている。しかし同時に、だからといって怖がってばかりいるのではなく、適切に注意し、楽しんで食べるために、正確な知識を身につけることが重要だと指摘している。

     関心を集めている放射性物質のリスク(この場合は発がんリスク)については、食品にしばしば含まれている化学物質のリスクと比較することで、それぞれの大小関係を明らかにしている。たとえば、わが国で作られるコメには無機ヒ素が含まれており、毎日食べ続けると20ミリシーベルトの被ばくと同じレベルになる(仮に1kgあたり500ベクレルのコメを毎日食べ続けても、せいぜい1ミリシーベルトである)。この例以外にも、本書では、加熱調理に伴って生成する発がん性物質のベンゾ(a)ピレンや、カビ毒の一種であるアフラトキシンのリスクが、現在注目を集めている食品中の放射性物質に比べてかなり高いことがわかる。

     一方、日本人が日常的に被るさまざまなリスクのなかで発がんリスクが最も高いのは喫煙であり、飲酒によるリスクも喫煙の4分の1に達する。本来、こうした身の回りに潜むリスクとの比較抜きに、放射性物質のリスクは語れない。このことについて著者は「食品添加物や残留農薬でがんになるとか、ほんのわずかの被ばくでもがんになるとか脅かしながら、タバコや飲酒についてまったく触れない人がいるとしたら、その人の目的はあなたやあなたの家族のがんリスクを減らすことではない」と指摘する。この一文は、放射性物質の危険性だけをことさらに煽る一部の報道や(自称)専門家たちへの痛烈なメッセージであろう。

     今だからこそ、正しい知識を身につけて、冷静に、そして現実的に判断することが重要である。すべての国民に読んでほしい書である。

    『「安全な食べもの」ってなんだろう? 放射線と食品のリスクを考える』  
    畝山智香子(日本評論社)
    ISBN978-4-535-58604-8 1600円+税

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