米国オバマ大統領は第二期目に入り、大統領就任当初からのテーマであった環境問題には熱心に取り組む姿勢を見せてきています。議会で環境法制化が頓挫した後、行政府の執行権限による環境規制の強化を目指そうとしています。また、シェールガス革命により、天然ガスの利用が拡大し、エネルギーの低炭素化は進んでいます。原子力発電も30年間の空白の後、新規原子力発電の新設が始まり、小型モデュラー炉の開発も加速しています。オバマ政権第二期は環境・エネルギー政策を一層展開させることが予想されます。
 オバマ大統領は第二期目の課題であるLNG輸出にも前向きな発言をしていますが、国内での受け止めは依然一色に染まったとは言えず、いろいろな動きが絡みあっています。そうした中、オバマ大統領はこれから数年の間に大統領実績ともなる「政治的遺産」つくりに専念することも考えられ、どのような形になるかが日本のエネルギーセクターにも影響を与えるものと思われます。
 本レポートでは第一期目以前からの経緯を振り返りつつ、日本のエネルギーセクターが留意すべき点を整理しながら米国の環境・エネルギー政策の進み行く方向とその主要論点を明らかにしたいと思います。

  • 2014/03/27

    オバマ政権の環境・エネルギー政策(最終回)
    環境・エネルギーを巡るオバマ外交

     オバマ大統領は、これまでみてきたようにこうした米国のエネルギーを取り巻く状況が一層強靭なものになるなかで、核軍縮、核不拡散と原子力の平和利用を通じて国際的な安全保障へ取り組むだろう。そして地球環境問題を通じて国際的に貢献をすることを、legacy(「政治的遺産」)とするかのような意図が見える。両方とも現状の袋小路だけみればなかなか前進は難しい。しかし、冒頭に述べたように仮に民主党時代が続くことも十分考えられる中でオバマ大統領が立ち上げた政策が大きな潮流となっていく可能性もある。 続きを読む

  • 2014/03/10

    オバマ政権の環境・エネルギー政策(その20)
    低炭素電源への取り組みが進む

     For everywhere we look, there is work to be done. The state of our economy calls for action, bold and swift. And we will act, not only to create new jobs, but to lay a new foundation for growth. We will build the roads and bridges, the electric grids and digital lines that feed our commerce and bind us together. 続きを読む

  • 2014/02/24

    オバマ政権の環境・エネルギー政策(その19)
    活発化する中国との連携

     2009年2月5日、アジア・ソサイエティー(Asia Society)は『エネルギーと気候変動に関する米中協力のロードマップ(A Roadmap for U.S-China Cooperation on Energy and Climate Change)』という冊子を発表した。これは環境面において、中国との対立から協力関係構築への転換に向けて、気候変動の専門家と中国問題専門家の両方が携わった作業として注目される内容となっている。 続きを読む

  • 2014/02/12

    オバマ政権の環境・エネルギー政策(その18)
    ケリーによる2度目の法案提出

     2010年になってケリー上院議員は、独立系リーバーマン議員、共和党グラハム議員と共同で上記同様の気候変動法案の上程に動いた(American Power Act)。温暖化ガスの削減目標はケリー・ボクサー法案と似た内容となっている。キャップ&トレードの開始を2013年とし、2020年削減目標は2005年に比して17%と、ケリー・ボクサー法案の20%を下院のワックスマン・マーキー法案の目標に戻した。 続きを読む

  • 2014/02/03

    オバマ政権の環境・エネルギー政策(その17)
    石炭を巡る攻防

     電力業界はワックスマン・マーキー法案を支援した。エジソン電気協会(EEI)は2009年1月に無償割当に関する提言を行った。この中でEEIは米国全体のCO2排出量の40%は電力セクターであるため、40%に対し無償割当を認めてもらえるよう求めた。 続きを読む

  • 2014/01/22

    オバマ政権の環境・エネルギー政策(その16)
    下院では環境保護急進派ワックスマンとマーキーが法案提出 2020年17%削減公約へ

     オバマ氏が次期大統領に決まった2008年11月、下院議会では実力者であったエネルギー・商業委員会のディンゲル委員長、下院エネルギー・環境小委員会のバウチャー委員長が更迭され、それぞれワックスマン氏、マーキー氏に交代した。ワックスマン氏もマーキー氏も環境保護急進派に分類される。前章でも触れたこの交代劇は、下院の民主党の勢力図を塗り替える事件だった。 続きを読む

  • 2014/01/16

    オバマ政権の環境・エネルギー政策(その15)
    2009年予算教書時:排出量取引導入により2020年には14%削減

     ブッシュ政権からオバマ政権に変わり、米国の環境政策は温暖化対策に積極的に取り組む方向に大きく舵を切った。以下その具体的内容をみていきたい。
     選挙時から当選後オバマ大統領が述べてきた温暖化対策の内容をまとめてみよう。まず、オバマ大統領は、包括的、全国的なキャップ&トレード、つまり温室効果ガスの排出量取引導入案を提示する。 続きを読む

  • 2013/12/24

    オバマ政権の環境・エネルギー政策(その14)
    原子力等への対応に関する政治動静

     113国会の上下両院の原子力政策の論点の中のもっとも関心がもたれるのが前々回述べた使用済み燃料・廃棄物管理に関する法案への対応である。これらについて少なくとも上院ではマコースキー(共和)ランドリュー(民主)らは協力的立場にある。上院のエネルギー天然資源委員会の委員長にはワイデン議員(民主)が就任したが、ビンガマン前委員長の路線を引き続き、共和党トップのマコウスキー(共和)とともに超党派的対応が目立つ。 続きを読む

  • 2013/12/13

    オバマ政権の環境・エネルギー政策(その13)
    核不拡散問題へのオバマ大統領の思い

     オバマ大統領はブッシュ前大統領の原子力積極策から転換しようとしているのだろうか。
     米国の原子力発電所新設への支援策は、2005年エネルギー政策法で実施しつくした感がある。この点で政策変更の余地は今は少ない。特に民間の電力会社が行う原子力発電所建設に対する融資(「連邦融資保証」と呼ばれる)については、実際に支援が受けられるのは数基だが、30年も動かなかった原子力新設計画が動き出した意義は大きい。 続きを読む

  • 2013/12/02

    オバマ政権の環境・エネルギー政策(その12)
    上院による原子力廃棄物管理法案

     ユッカマウンテンに関するオバマ政権の動きに呼応して上院では新たな原子力廃棄物管理に関する法制化の動きが始まっている。2013年4月になって上院エネルギー天然資源委員会のワイデン上院議員(民主 同委員会委員長 オレゴン州選出)およびマコウスキー(共和 アラスカ州選出)、上院歳出委員会エネルギー・水資源開発小委員会のファインスタイン(民主 カリフォルニア州選出)およびアレクサンダー(共和 テネシー州選出)が共同で2013年原子力廃棄物管理法案を提出した。 続きを読む

  • 2013/11/20

    オバマ政権の環境・エネルギー政策(その11)
    大統領就任以前のオバマの原子力への対応

     新規原子力発電所計画が30年ぶりに動き出している米国だが、オバマ大統領は大統領選挙期間中からユッカマウンテン処分場の計画の見直しを主張していた。その後ユッカマウンテンは、ブルーリボンコミッションという専門家パネルによる一定の審議を経て見直しをすることとなった。オバマ大統領の原子力政策はどこへ向かっているのか。大統領就任以前のオバマ氏の言動と比較しながら、オバマ大統領政権の原子力政策を分析してみたい。
    続きを読む

  • 2013/11/08

    オバマ政権の環境・エネルギー政策(その10)
    ブッシュ政権で進んだ原子力政策

     2000年、ジョージ・W・ブッシュ氏が大統領に就任してから、米国の原子力政策は格段に進んだ。
     2001年5月にチェイニー副大統領が座長として取りまとめた「国家エネルギー政策」は、原子力を「温室効果ガスを発生しない大規模なエネルギー供給源」であると評価し、エネルギー政策の主要な柱として原子力発電を位置づけた。カリフォルニア州の電力危機や、原油価格の高騰を受けたものだ。 続きを読む

  • 2013/10/25

    オバマ政権の環境・エネルギー政策(その9)
    天然ガス価格に連動する電気料金

     米国の発電構成は石炭、天然ガス、原子力、水力および再生可能エネルギー等から成り立っている。すでに述べたように天然ガスは発電構成上シェアを増大している。他方、石炭・原子力についてはブッシュ前大統領時代とオバマ政権発足後ではエネルギー政策上その重みづけが異なってきている。石炭、原子力、再生可能エネルギーに対するオバマ政権の取組みと今後を考えてみたい。 続きを読む

  • 2013/10/16

    オバマ政権の環境・エネルギー政策(その8)
    LNG輸出を巡るワシントン政治

     地域によってはLNG輸出に懸念をもつところもある。ワシントンとエネルギー省だけをみていたらそのことを見逃す。この点注意を要する。
     環境面から地元の懸念を代表するのはエドワード・マーキー下院議員(民主党マサチューセッツ州選挙区)とロン・ワイデン上院議員(民主党オレゴン州)である。この両議員はLNG輸出の一時棚上げを主張している。ワイデン上院議員は上院エネルギー・天然資源委員会委員長である。 続きを読む

  • 2013/10/08

    オバマ政権の環境・エネルギー政策(その7)
    シェールガス革命を取り巻く政治情勢

     シェールガスの生産拡大についてはこれまで随時述べてきたが、何といってもその直接意味するところは電源ミックスにおけるシェアを増大したことである。2012年4月には米国史上初めて天然ガスが発電の32%に達し、石炭火力による発電とほぼ同等になった。このことは国内の環境規制、他のガス生産国への影響、同じ頁岩層から採取されるタイトオイルの増産によるエネルギー自給政策などさまざまな意義をもっており、その増産の可能性は、「成長の限界」への挑戦ととらえる議論もみられる。 続きを読む

  • 2013/09/27

    オバマ政権の環境・エネルギー政策(その6)
    大統領選で見えた共和党との微妙な政策の違い ~環境面

     前節で紹介した2012年10月MITでおこなわれたオバマ大統領のエネルギー環境アドバイザーのアルディー氏とロムニー候補のエネルギー環境アドバイザーキャス氏の論戦の中から環境面に注目して両者の相違点を見出したい。 続きを読む

  • 2013/09/18

    オバマ政権の環境・エネルギー政策(その5)
    オバマ第二期政権の政策の方向性

     第一期オバマ政権におけるエネルギー環境政策は前々回紹介したようにアメリカ進歩センターの影響が強かった。それはオバマ大統領とポデスタ補佐官との個人的人間関係が大きかったためだが、第一期政権の途中でアメリカ進歩センターの影響力は減り、多くの政治任命の要人を排出した未来資源研究所(RFF)も含め、いわゆるシンクタンクの影響力そのものがなくなり、第二期は第一期の後半から含め、産業ロビイストの影響が強くなっている。 続きを読む

  • 2013/09/12

    オバマ政権の環境・エネルギー政策(その4)
    景気対策法における環境・エネルギー投資

     オバマ氏は大統領選直後から、議会に対し、3000億ドル規模の景気を刺激する立法措置を要請した。エネルギー面でオバマ大統領の要請したのは、再生可能エネルギーのむこう3年間の供給量倍増、再生可能エネルギーのための3000マイル(4800キロメートル)以上の送配電網建設、連邦建物の75%以上の省エネ、250万軒以上の断熱強化であった。 続きを読む

  • 2013/09/05

    オバマ政権の環境・エネルギー政策(その3)
    理想的過ぎたアメリカ進歩センターの主張

     アメリカ進歩センターが2007年11月27日に掲げた「エネルギーチャンスをとらえて――低炭素経済の創造(Capturing the Energy Opportunity: Creating a Low-Carbon Economy)」という報告書を具体的に各項目をみていこう。
     排出枠量については、全量をオークションすることを主張。これにより年間750億ドル(2009年2月発表の予算教書では800億ドル)の収入を見込んだ。 続きを読む

  • 2013/08/22

    オバマ政権の環境・エネルギー政策(その2)
    景気対策法とエネルギー政策

     オバマ大統領の最大の課題はなんといっても100年に一度ともいわれる経済危機への対処である。米国発の金融危機が世界に波及し、米国内ではリーマン・ブラザーズを含む金融機関が次々と倒産し、公的資金が注入された。また米国を代表する基幹産業である自動車会社3社のうちゼネラルモーターズ(GM)、クライスラーの2社が倒産し、再編を迫られる事態となった。 続きを読む

前田一郎(まえだ いちろう)/環境政策アナリスト
1956年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。東京電力入社。日本エネルギー経済研究所派遣を含め、1992年から1996年の間ロンドン事務所駐在。2004年から2008年ワシントン事務所駐在。