第2回 化学産業は温暖化対策のソリューションプロバイダー〈前編〉

日本化学工業協会 技術委員会委員長/三井化学株式会社常務執行役員、生産・技術本部長 松尾 英喜氏


国際環境経済研究所理事、東京大学客員准教授


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――具体的な取り組みの事例をうかがわせてください。

松尾:私どもの三井化学大阪工場の事例ですが、エチレンプラントはエチレンを液化する為の冷凍機を動かす必要があり、大量のエネルギーを使います。プラントに隣接する大阪ガスでは、輸入したLNG(液化天然ガス)を海水で気化する際に冷熱を捨てておられた。我々は、これをうまくWIN-WINな関係で組み合わせることができないかと考えました。さまざまな技術的なハードルを克服してLNGの冷熱をエチレンプラントの冷却用に利用することを実現し、冷凍機の消費電力の削減を達成しています。この一つの合理化だけでも、年間4万トンのGHG削減となっています。

――4万トンの削減は大きいですね。その他の取組みはいかがですか?

松尾:例えば、染料や合成樹脂、架橋剤などに使われている「アクリルアマイド」という製品の例があります。アクリルアマイド製造プロセスの反応工程で使用される銅触媒をバイオ触媒に転換し、CO2発生量を40%削減するなど、プロセスそのものでも画期的な省エネ技術を開発しています。

 化学産業の特徴として、化学製品そのものが末端の製品になっているものもありますが、基本的にはいろんな最終製品の素材・部材になっているものが多いのです。化学はあらゆる産業のベース産業だと思っています。自らのGHG削減だけでなく、他の全ての産業全体に対して、どうやってGHG削減に貢献していくかというのは一つの大きなテーマです。

他業界のバリューチェーン全体でのCO2削減に貢献

――「低炭素社会実行計画」の2つ目の柱、「主体間連携」についてもう少し詳しくうかがわせてください。

松尾:自社の生産工程のCO2排出量削減にとどまらず、低炭素製品やサービスを他の業界主体に提供し合って、バリューチェーン全体でCO2を削減しようというものです。例えば、自動車の例が一番わかりやすいと思います。自動車は鉄の塊のように見えますが、車の中には樹脂製品が多く使われ、10~15%は樹脂製品です。樹脂以外でもオイルやタイヤなど、いろんな意味で化学製品が貢献をしています。(図1)

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(図1) 出典:三井化学

 自動車業界では、一番大きなテーマが、軽量化して燃料の使用量を大幅に削減し、それによってGHGを削減していくことです。この軽量化の実現に化学産業が貢献しています。樹脂製のバンパーや内装品をはじめとして、昔は金属で作られていた燃料タンクなども、今は樹脂で作られています。自動車に磁石を持って乗って頂くと、ほとんど磁石にくっつきません。多くの素材・部材が樹脂になっているからです。

 我々樹脂メーカーは、いろいろなものを組合わせて、バンパー素材などを作り上げていますが、昔は塗装をしていました。しかし、今は樹脂そのものに光沢があり、柔らかさも出て、塗装したように見える素材に作り上げています。そうすると、塗装をする必要がありません。これにより自動車産業では塗料工程が不要になり、その工程から出る排水も減るわけですから、環境負荷に対する削減効果もあります。その他にもギアオイルの中に化学製品の「ルーカント」などの添加剤が入ることにより、大幅に燃費が向上し、エンジンの長寿命化が可能になり、GHGの削減貢献になる例もあります。

 さらに新しい技術として、「金属樹脂一体成型」部材の開発を進めており、普及が拡がっています。金属だけの部材では重くなるので、金属と同じ強度持たせて軽量化をするため、金属と樹脂を一体化させたものです。接着剤やビスなどの留め具はありません。アルミと樹脂を一体化させることにより、金属と同じような強度を持ち、重さそのものは3分の1、4分の1という軽量化を実現しました。また、今後は、最近話題のカーボン繊維が自動車にも更に適用されていくと思います。化学産業として、自動車のさらなるGHG削減に貢献するものと期待しています。



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