パリ協定“署名式”とは何か


国際環境経済研究所理事・主席研究員


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<大統領候補たちのスタンス>

 では、次期大統領の候補たちはどのようなスタンスを採っているのであろうか。
 ニューヨーク州の選挙で勝利し、サンダース候補に大きく水をあけた民主党ヒラリー・クリントン候補は、昨年11月に「温室効果ガスの排出を2050年までに1990年レベルから80%削減する」ことを掲げ、非常に野心的な環境・エネルギー政策を発表した。排出量取引制度の創設や自動車燃費の大幅改善、新エネルギーの開発研究への大規模投資などの施策によって、これほどの大幅な削減が本当に可能であるかどうかは不明だが、彼女が大統領になった場合には、現在の米国の2025年以降の目標を引き上げる可能性も否定できない。サンダース候補も気候変動対策には前向きではあるが、化石燃料全般の利用にも、低炭素電源である原子力にも否定的なコメントをしている。
 逆に共和党の候補は程度の差はあれ温暖化対策に否定的である。ニューヨーク州でも勝利し今や代議員獲得数でトップを走るトランプ候補は、温暖化に懐疑的であり、米国が気候変動対策に対してコストを負うことについて否定的である注4) 。予備選では既に一歩後退した感のあるテッド・クルーズ候補は、大統領に選出されればパリ協定から脱退することを公言していたし、代議員獲得数では今のところ大きく出遅れてはいるが、穏健かつ現実的とされる注5)オハイオ州のジョン・ケーシック知事は、共和党候補の中では珍しく気候変動問題を認識し、以前はその対策の必要性に言及したこともある。本年2月にも再エネの拡大を訴える注6)など、他の候補と一線を画してはいるが、2015年8月には「気候変動は証明されておらず、それへの対処のために雇用を失うべきではない」とも発言している注7)注8)

<パリ協定発効要件を踏まえ、日本の締結手続きも戦略的に>

 パリ協定の発効要件は、55か国以上の締結国数を確保することとあわせて、締結国の排出量が世界全体の55%以上を占めることとなっている。後者の要件は、小島しょ国など排出量の少ない国が数多く締結すれば、大排出国の参加を得られなくとも協定が発効し、大排出国に対して枠組み参加に向けたプレッシャーをかけることができなくなることを避けるため、日本の丸川環境大臣が強く主張して認められたものである。
 京都議定書の失敗に学び、2020年以降の枠組みの実効性を確保するためには、両国で世界の排出量の約4割を占める米国・中国が参加し、透明性をもって取り組むことが不可欠だ。
 署名式などのイベントをきっかけに、わが国も手続きを急ぐべきという声も聞こえるが、米国の離脱リスクを念頭に置き、批准のタイミングについては慎重にあるべきであろう。
 米国が離脱してしまえば、参加を見合わせる国も出てきかねない。そうなれば、従前から日本が主張し続けてきた「すべての主要排出国が参加する公平で実効性ある枠組み」にならない可能性もある。政府は国民に対して、京都議定書に続く枠組みは「すべての主要排出国が参加する公平で実効性ある枠組み」であるべきと説明してきたのであり、そのトリガーとなり得る米国の動向については慎重に見極める必要があるだろう。

注4)
https://www.washingtonpost.com/news/energy-environment/wp/2016/03/22/this-is-the-only-type-of-climate-change-donald-trump-believes-in/
注5)
WSJ 2016.4.5
注6)
http://thinkprogress.org/climate/2016/02/22/3751980/kasich-climate-change-human-impact/
注7)
http://thinkprogress.org/climate/2015/08/09/3689649/john-kasich-climate-denial/
注8)
大統領選と環境政策については、弊研究所の特設コーナー「米国の大統領選と環境政策」などを参照いただきたい。

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