米国の再生可能エネルギー政策(7)~強化地熱発電システム(EGS)開発


国際環境経済研究所理事、東京大学客員准教授


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(前回は、「米国の再生可能エネルギー政策(6)~風力発電の新時代3」をご覧ください)

 世界一の地熱資源を有する米国は、地熱開発のトップランナーである。(図1)地熱発電所のほとんどがカリフォルニア州ザ・ガイザーズ、同州インペリアルバレー、ネバダ州ベーズン・アンド・レンジの各地域に分布している。世界最大の地熱開発地域であるザ・ガイザーズ(80平方km)では、80年代後半から生産流体の劇的な減衰を経験したが、地下への水還元により問題を克服し、地熱発電急増の現状を回復してきた。(図2)


図1

(図1)世界各国の地熱発電導入量


図2

(図2)ザ・ガイザーズの減衰と回復(Stark et al., 2005)

世界の地熱研究課題の中心は、EGS発電

 近年米国では、次世代技術である「強化地熱発電システム(EGS: Enhanced Geothermal Systems)」の開発に力を入れている。これまでEGS発電は、技術的に困難である上に、開発コストがかかり非経済的であると考えられていた。しかし、EGS発電は火山帯によらず、全米で利用できる地熱発電技術で、この方法により地下深度10 kmまで開発すれば、2050年には全米で少なくとも1億kWの発電が可能だと言われている。(図3)


図3

(図3)出典:Tester et al. (2006)表紙とその10km深地温分布

 弘前大学北日本新エネルギー研究所・村岡洋文教授の文献によると、EGS発電は高温岩体発電の発展形で、ほぼ垂直に据えられた井戸に何百万ガロンもの水と化学物質を比較的高圧で注入する。そして低温と高温の利用、圧力、化学作用を合わせることにより、深層にある高温岩体に裂け目を生じさせる。これが新たな「岩盤亀裂ネットワーク」を作り、このネットワークを通して水を注入し、熱されて発生した蒸気を地表に戻して発電に使う仕組みになっている。(図4)


図4

(図4)EGSの概念図(Tester et al., 2006)

EGSの2つの障壁への挑戦

 最近の米国,欧州,オーストラリアの地熱研究開発の中心的課題はこのEGS発電である。しかし、EGS発電プロジェクトは現在、実証または実験段階にある。EGS実現の鍵は受け入れ可能な速度、かつ受け入れ可能な抑制流量で、長時間生産を維持し得る十分な容積をもった多数の貯留層を造成し、維持することにあるとされる。その一方、課題となっているのが、「注入水損失」と「誘発地震リスクの管理」である。
 米国では、2006年にエネルギー省(DOE)がマサチューセッツ工科大学に18名の地熱専門家を集め、EGS発電の将来性を検討したことが火付け役となり、予算額は年々増額されていった。そうした中、2009年9月、当時ドイツのEGS発電開発において注水の最中に何度か地震が誘発されたとする問題がニューヨークタイムズで取り上げられた。この影響で、米国・カリフォルニア北部のAltaRock Energy社による EGSプロジェクトも中止に追い込まれることになった。
 しかし、その後、気候変動対策に積極的に取り組むオバマ政権のもと、EGS発電は環境に配慮した低炭素電源で、かつ大規模発電が可能であることが見直され、開発支援が強化されるようになった。以来、EGS発電の「注入水損失」と「誘発地震リスクの管理」の2つの障壁に対する技術的な改善への努力を続けてきた。実証プロジェクトの一つ、ネバダ州チャーチル郡の送電網(グリッド)に接続したEGS発電では、2013年4月、地熱田の電力生産量が約38%増加し、1.7MWの電力が送電網に追加され、EGS発電の技術の有効性が確認されている。

選抜5チームによるEGS発電実証支援

 2014年7月、エネルギー省(DOE)は、EGS発電の地熱エネルギー最先端研究施設(FORGE:Frontier Observatory for Research in Geothermal Energy)の構築に最大3100万ドル(約37億円)を投じることを発表した。FORGE事業の構想により長期的に約100GWの電力(1億世帯分の電力量に相当)がベースロード電源として利用が可能になることが期待されている。
 FORGE事業の第1段階では、助成対象となる5チームを選抜し、1年間に200万ドル(約2.5億円)の資金を投じ、用地の適性分析と計画立案を行うことになっている。DOEは、2015年4月下旬、FORGE事業の第1段階の選抜5チーム(カリフォルニア州、アイダホ州、ネバダ州、オレゴン州、ユタ州)を発表し、プロジェクトがいよいよ始動した。


図5

出典:DOE(オレゴン州ニューベリー火山そばのAltaRock Energy社によるEGSプロジェクト)

 続く第2段階では3チームに絞り、最大2900万ドル(35億円弱)の支援を行い、候補地の機器や特性評価、認可を行う予定である。最後の第3段階では1チームに絞り、共同研究のもとEGS発電の最適化、およびコスト低減などの開発を行い、FORGE事業を完全遂行する構想になっている。
 オバマ政権の「All-of-the-above」(全方位的)戦略のもと、雇用創出と国際競争力強化に向け、米国では様々なエネルギー源の研究開発への投資を行っているが、EGS発電の実用化の目途が立てば、火山帯のないところでも地熱開発の可能性が大きく広がることになる。米国での成果が、日本を含め世界の多くの国にとって画期的な次世代地熱エネルギー開発の先駆けとなることを期待したい。

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