環境と経済が両立に向かう『土壌汚染対策』とは(その2)

諸外国で進む土壌汚染跡地の再開発と経済効果


株式会社FINEV(ファインブ)代表取締役

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 土壌汚染のある土地の汚染浄化と環境対策を進めながら、再開発を行うプロジェクトは、非常に経済効果が高く、このような環境保全と両立した地域再生が諸外国で進められています。

 アメリカでは、1980年に土壌汚染対策に関する法令が施行されて以降、汚染がある土地やその懸念のある土地の売買や開発が進まず、放置されるケースが多くありました。また産業構造の変化などから閉鎖された工場跡地が未利用のままとなり、地域の雇用や税収入の減少、治安の悪化なども課題となっていました。

 土壌汚染のある土地の開発には、汚染されている土壌や地下水の調査や浄化、浄化責任者の費用割合の調整、融資機関との調整、浄化費用の捻出、自治体との調整、浄化後の環境管理の継続等、様々な手続きが必要であり、管轄省庁も複数に及ぶため、新規の不動産開発よりも複雑で困難な課題が多くあります。
 一方、工場や産業施設があった土地は、交通の利便性に高く、電気や水などのインフラが整備され、新たに新規開発を行うよりも経済的にも環境面にも優れていることが多く、環境対策を進めながら、有効利用を進めることで雇用創出、地域経済の活性化など様々なメリットが期待できます。
 このため、クリントン政権では、土壌汚染の法制化から13年後の1993年から土壌汚染の懸念のある土地(ブラウンフィールド)の有効利用に取り組む“ブラウンフィールド・イニシアティブ”を開始しました。
 ブラウンフィールドとは、有害物質や廃棄物による汚染の懸念がある施設や土地をさします。当時米国の多くの都市では、閉鎖した工場などがそのまま放置され、汚染の実態も把握されていない状況でした。このため、ブラウンフィールド・イニシアティブでは、各自治体と協力して土地購入者が再開発を推進しやすい枠組みや制度を検討していきました。
 クリントン政権では、15の中央省庁と地方自治体の連携を進め、いわゆる縦割り行政の課題を整理して、全米に20か所以上のモデル地域を設定してブラウンフィールド・ショーケースとして再開発を進め、成功モデルを紹介しています。
 ショーケース以外にもブラウンフィールドを再生した成功例は数多くあります。たとえば、米国東部の鉄鋼の街として栄えたピッツバーグ市は、現在大学の研究施設が整備されていますが、かつて使用されていた鉄鋼関連の施設や工場が、産業構造の変化によって閉鎖され、そのまま取り残されていました。施設の敷地には土壌汚染があり、再開発が行われていない状態でした。1995年から始まった調査支援プログラムで20万ドル(約2000万円)の調査補助金が提供され、工場跡地等の土壌汚染調査が始められました。1998年までに浄化対策が完了し、州政府の浄化終了証書が発行されると、環境リスクに対する懸念が払しょくされ、2億ドル(約200億円)の民間資金が投資され、新たに住宅建設と商業施設が建設されることになりました。そこには700を超える住宅が建設され、1600以上の雇用が生まれています。さらにピッツバーグ市内には、工場跡地のブラウンフィールドを再開発して、カーネギーメロン大学のバイオ研究施設に再生して成功している事例もあります。

 米国環境保護庁(EPA)では、現在までに約2万カ所以上の調査を実施し、汚染された土地の浄化・再開発を進めてきました。その経済効果は200億ドル(約2兆円)を超え、汚染サイトの地域再生に投じた公共投資1ドル当たり、17ドル以上の経済効果があると試算されています。また経済効果だけでなく、都市部の産業跡地開発が進み、コンパクトシティとして再生したために通勤時間が削減し、自然環境の保全も進み、浄化後の住宅価格は、2-3%増加し、犯罪率も低下していることが報告されています。
 現在でも、米国の連邦省庁15以上が優遇政策を取っており、さらに各州や都市で独自の政策的支援やインセンティブが提供されています。

≪欧州≫
 欧州でも過去の産業跡地や軍用地などの環境汚染対策と再開発は、欧州地域内の持続的な発展においても重要だという認識が広がっており、ブラウンフィールド再生を進める研究が進められています。

 もともとイギリスでは産業跡地の再利用推進を進めており、汚染原因者でない土地購入者が土壌汚染や有害物質がある土地を購入し、汚染の浄化等を行った場合、浄化費用の150%を損金算入できる租税措置を取ってきました。この背景としては、イギリス政府が新規の開発による自然破壊を抑えるため、新たに建設する住宅の70%以上をすでに利用されている土地(ブラウンフィールド)に建設するという目標を掲げたことがあります。
 前回も紹介したロンドンオリンピックサイトは、英国王立チャータード・サベイヤーズ協会(RICS)がとりまとめたオリンピック開催地における都市再開発の成功事例として紹介されています。
 欧州では、各国でブラウンフィールドの定義が少しずつ異なっており、定義によって各国政府の政策や財政支援の対象が異なるため、各国の定義を地図上に示し、管轄行政や連絡先を提示しています。欧州内にはメガサイトと呼ばれる大規模な汚染サイトが約2万あるといわれており、土壌汚染の浄化と再開発がうまく進んだ事例の共有化も進められています。この取り組みには米国のブラウンフィールド専門家も参画しており、米国と欧州ではブラウンフィールドの開発に関する知見が共有されるようになっています。

 米国では汚染懸念サイトは100万あると言われ、深刻な汚染サイトは約45万といわれています。欧州には約300万の汚染サイトがあり、深刻な汚染サイトは約25万あるとされています。米国や欧州でブラウンフィールド開発が進められた背景には、土壌汚染の規制が日本よりも早く、産業構造の変化と共に汚染の懸念のある土地の浄化や再開発が進まなかった時期が早かったためです。
 日本国内にも潜在的な土壌汚染サイトは、民有地だけで約30万あると言われています。日本国内の土壌汚染対策法が制定されて11年が経過し、産業構造の変化と共にブラウンフィールド再開発の仕組みも必要になってきていると思われます。

参考米国ピッツバーグ市の事例_mini

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