東京都ができる「脱原発」を考える


国際環境経済研究所主席研究員

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 平成26年2月に予定されている東京都知事選挙において、「脱原発」を掲げる細川護熙氏の出馬が取りざたされている。(本稿は平成26年1月22日に執筆している)

 これまで、国家的なエネルギー政策に対して、東京都知事が深く関与するということを想像していなかったのだが、改めて、東京都知事が「脱原発」に向けて関与できそうなことをいくつか考えてみた。
 但し、あくまでも戯れの頭の体操である。

1. 国に対する意見の申出

 地方自治に影響を及ぼす問題については、全国知事会を通じて、意見を申し出又は国会に意見書を提出することができる。内閣は意見に対して遅滞なく回答するよう努めることとなっている。
 東京都が「脱原発」の意見を公的に表明することは、原理的には可能であるようだ。但し、その意見がエネルギー政策に反映されるかどうかはわからない。

地方自治法(抜粋)

第263条の3  都道府県知事若しくは都道府県の議会の議長、市長若しくは市の議会の議長又は町村長若しくは町村の議会の議長が、その相互間の連絡を緊密にし、並びに共通の問題を協議し、及び処理するためのそれぞれの全国的連合組織を設けた場合においては、当該連合組織の代表者は、その旨を総務大臣に届け出なければならない。
2  前項の連合組織で同項の規定による届出をしたものは、地方自治に影響を及ぼす法律又は政令その他の事項に関し、総務大臣を経由して内閣に対し意見を申し出、又は国会に意見書を提出することができる。
3  内閣は、前項の意見の申出を受けたときは、これに遅滞なく回答するよう努めるものとする。

2. 株主として東京電力への影響力行使

 東京都は東京電力の第4位の大株主である。この大株主としての地位により、東京電力の「脱原発」を進めるというものである。
 東京都の所有株式数の割合は1.2%(平成25年9月30日現在)であり、影響力もそれに見合ったものとなろう。

3. 東京都自身の電力調達における「脱原発」

 東京都自身が東京電力など原子力発電所を持つ電気事業者から電力を購入しないという方策である。
 既に東京都は都の施設について、東京電力以外からの供給を受けている。これをさらに進めて、東京電力(を含む9電力)の比率をゼロにすれば、自治体としての東京都は「脱原発」ということになるのかもしれないが、都知事選の公約として妥当かどうかは考える余地があろう。

4. 東京都民への電力供給における「脱原発」

 経済的誘導等の手法を用いて、都民の電力から原子力由来のものを排除するという考え方である。何らかの施策でこれが実現されれば、地域としての東京都が「脱原発」ということになろう。
 関連しそうな政策としては、再生可能エネルギーの固定価格買取制度があるが、これを推進しているのは資源エネルギー庁である。

5. 省エネルギーと再生可能エネルギーの普及拡大

 省エネルギーと再生可能エネルギーの普及拡大は「脱原発」のメニューとして語られることがある。しかし、これらは直接的には「脱原発」を意味しない。むしろ、歴史的には安定供給とエネルギーセキュリティのため、原子力の推進と並行して進められてきた経緯がある。
 また、東京都(他の多くの自治体や企業等も)は既に省エネルギーと再生可能エネルギーの普及拡大に取り組んでいる。
 「省エネルギーと再生可能エネルギーの普及拡大」を「脱原発」と無理に言いかえる必要はないし、新しい知事を待つ必要もない。

6. 訴訟

 一般論としては、取消訴訟などの抗告訴訟がある。これは行政庁の公権力の行使に関する不服の訴訟であり、行政庁の処分または裁決に不服がある場合に取消しを求める取消訴訟や行政庁が処分又は裁決をしてはならない旨を命ずることを求める差止訴訟などがある。
 つまり、東京都が原子炉設置許可の取消を求める訴訟を提起するというイメージだ。
 これらの訴訟を提起できるのは「法律上の利益を有する者」だが、東京都がそれに該当するかという原告適格の問題があると考えられるが、それ以前に、原子力発電所は多かれ少なかれこのような訴訟を既に抱えている。そこに東京都があえて原告として加わろうとする意味が問われるだろう。

7. 規制権限等による原子力関連事業への影響力行使

 原子力に関連する事業活動に対して規制権限や税制によって影響力を行使するものである。東京電力やその他原子力に関連する会社には、東京に事業所等の資産を置く企業もあり、また、何らかの形で東京都の許認可を受けているはずである。そこに影響力を行使する。平たく言えば「原子力関連企業には許可を与えない」とか「税金を重くする」というものである。
 ある意図(ここでは「脱原発」)を実現するために、別の趣旨で作られた制度を利用するというのは、行政のあり方として適切かどうかという問題があろう。

8. その他政治的影響力の行使

 許認可や税制といったものではないが、東京五輪など、東京都が関与する事柄や国策への協力等を人質として政治的に「脱原発」を進める方法である。
 「原発問題があるのだからオリンピックは辞退するべき」との言説も聞かれるところであり、それなりの支持は得られるのかもしれない。

 以上、東京都知事が推進できそうな「脱原発」の方策について、戯れに考えてみた。
 素人考え故に欠落や誤りはあるかもしれないが、「脱原発」の公約にふさわしく、現実味のある(支持があり、やろうと思えばできるかもしれない、という程度の)「脱原発」施策はあまり多くないように思う。あえて言えば、7や8のように立場を利用した影響力の行使であろうか。「脱原発」の善し悪し以前の問題として、このような影響力の行使が許される社会というのはなかなか恐ろしいと思ったが、所詮は戯れである。
 現実の選挙においては、東京都民にとって何が必要かという視点で、戯れずに候補者を選びたいと思う。

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